決めつけずに活動配分
Q 子どもの頃スマホを長時間見せることで、将来、発達障害につながることがある、と聞いたことがありますが本当でしょうか?
A 「発達障害の原因は乳幼児期にテレビやスマホを長時間見せたことである」という説を唱える人が、昔から一部に存在します。その根拠として、発達障害の子どもは乳幼児期にテレビやスマホなどを見ていた時間が長い、という調査結果がときどき報告されます。しかし、こうした調査結果の解釈には注意が必要です。
仮に小学生を男女100人ずつ集め、乳幼児期に電車のオモチャで遊んだ1日あたりの平均時間を比較すると、男の子の方が長かったというデータがあるとします。皆さんは「男の子の方が乳幼児期から電車のオモチャが好きな子が多い」と考えませんか? まさか、「乳幼児期に電車のオモチャで長く遊ばせると男の子になってしまう」とは考えないでしょう。
では、発達障害の小学生と発達障害でない小学生を100人ずつ集め、乳幼児期にテレビやスマホを見せていた1日あたりの平均時間を比較したとします。発達障害の小学生の方が平均時間が長かったとするとどうでしょうか? 「乳幼児期にテレビやスマホを長時間見せると発達障害になってしまう」と考えたくなりませんか? でも、最初の例と同様に考えれば「発達障害の子どもの方が、乳幼児期からテレビやスマホが好きな子が多い」と考えてもよいはずです。
他のことだと興味が持てず集中できないのに、これらを見せていれば落ち着くということであれば、保護者が子どもをデジタルメディアに触れさせる時間がつい長くなるのも当然です。テレビやスマホを長時間見るというのは発達障害の原因ではなく、早期兆候なのかもしれません。
実際、発達障害の人たちにはデジタルメディアが大好きな人が多いのです。生身の人間から曖昧な話し言葉で物を教わっても全くピンときませんが、明快なデジタル情報を視覚的に提示されたら、すぐにピンときます。だから、乳幼児期からすぐにテレビやスマホに寄っていくのです。発達障害の子どもたちにとって、テレビやスマホはさまざまな知識を吸収し、社会参加に必要な情報を得るための貴重な情報源です。
テレビやスマホだけで1日を過ごさせるような度を越えた育て方はお勧めできませんが、テレビやスマホを悪いものと決めつける必要もありません。それぞれの子どもと家族が楽しく快適に過ごせるような、1日の活動配分を考えてみてください。
(本田秀夫・信州大医学部子どものこころの発達医学教室教授)
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