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「厄介」な家族の記憶

2015年12月7日 11時05分
 家族の記憶というのは厄介だ。どんなに大人になっても、急所を軽く突かれただけでボタボタと涙が止まらなくなる。幸福というものが儚(はかな)いものだと知れば知るほど、その涙は不意を衝(つ)く。
(小泉今日子さん著『小泉今日子書評集』より)

NHK連続テレビ小説「あまちゃん」に出演した小泉今日子さん(左)。家族の関係を見事に演じた=岩手県久慈市

NHK連続テレビ小説「あまちゃん」に出演した小泉今日子さん(左)。家族の関係を見事に演じた=岩手県久慈市

 「なんてったってアイドル」だった、歌手で女優のキョンキョンこと小泉今日子さんの書いたものが本になった。とはいえ、有名人のエッセーのたぐいではない。全国紙(読売新聞)の読書欄に、38歳の時から10年間にわたって執筆した書評97本をまとめたものである。
 冒頭に掲げたのは、西加奈子さんの『さくら』を取り上げた一節だ。ある家族の混乱と再生を、「サクラ」と名付けられた愛犬を交えて描いた、西さんの出世作といえる小説。誰にも思い当たる部分のある、セピア色になった家族の風景への哀感をにじませながら、小泉さんは「痛くて優しい小説」と評した。
 「家族ものには弱いんです」と言う小泉さんは近年、女優としても家族もので好演。NHK連続テレビ小説での『あまちゃん』では、主人公の母親役で出演し、愛憎が入り交じった母子関係を等身大で演じた。実生活での元・夫と共演した映画『毎日かあさん』も印象深かった。
 本題に戻ると『さくら』に限らず、さまざまな本を取り上げる小泉さんの感性や視点がいい。「戦争の本当の怖さは、人間から感情を奪ってしまうことでもあるのだろう」(三崎亜記『となり町戦争』)、「私は今、読者ということを忘れて、その物語の隅っこに確かに存在していたような錯覚に戸惑っている」(小川洋子『ミーナの行進』)…。
 執筆順に書かれた書評集は、小泉さんがその時々に何を考え、何に心を打たれたかの一端を知ることもできそうだ。ちりばめられた珠玉のフレーズとともに。
〈向山文人〉